ショートショート風の話です。
「天使のような」
「じゃあ、○×病院に午前7時13分。頼んだよ」
「はい、課長。行ってきます」
こじんまりしたオフィス。二人とも白いスーツに身を包んでいるが、課長と呼ばれた方は頭髪に白髪がまじっている。もう一人は若そうだ。
若い方の男は、やや緊張した面持ちで静かにオフィスを出て行った。
○×病院 午前7時13分、一人の赤ちゃんが生まれた。
「まあ、かわいい。目はあなたにそっくりね。」
「鼻と口元はお前にそっくりだよ。天使のようだなあ」
我が子の誕生を喜ぶ夫婦。赤ちゃんは婦人に抱かれて眠っている。
そこへ白いスーツの男が現れた。夫婦に近寄り、赤ちゃんの顔を覗き込む。
「生まれたての赤んぼってのはサルみてーだな」
「お父ちゃんでちゅよ。いないいない、ばー!」
「だめよ、今寝てるんだから。起きちゃうでしょ」
夫婦は、白いスーツの男に全く気づいていない様子で、我が子の顔をにこやかに見つめていた。
「ま、父ちゃん母ちゃん、よろしくたのまあ」
白いスーツの男は赤ちゃんの頭に右手を置いた。目を閉じてぶつぶつと何かをつぶやくと、その姿は徐々に透け、やがて消えた。
3年後。
その子は高熱を出して寝ていた。苦しそうにうめき声をあげている。両親は二人して心配そうに息子の顔を見つめていた。時折、タオルで汗をふいてやっている。
その子の口から煙のようなものが吐き出された。煙は徐々に人の形となり、あの白いスーツの男が現れた。
「これで期間終了だ。あとはちゃんと育ててやってくれよ。…つっても聞こえないか。まさに『天使』みたいな子だったろ?」
白いスーツの男は立ち上がり、壁に向かって歩いて行く。男は壁をつきぬけ、消え去った。
熱が引いたのか、静かに寝息を立てる息子を、両親はほっとした顔で見つめていた。
12年後。
「クソババァ!いいからこづかいよこせってんだろ!」
「だってお前、こないだあげたばかりじゃ・・・」
「あれっぽっちじゃ足らねえんだよ!」
「やめろ、暴力はやめるんだ」
「うるせえクソオヤジ!」
「なんでこんなことに・・・小さい頃は天使のような子だったのに…」
母親はその場に泣き崩れた。
白いスーツの男はその様子をモニターで見ていた。
「そりゃあ、小さい頃は本物が入ってる訳だからな」
「やあ、君が担当した子かい?」
「あ、課長。こりゃだめですね。ほんと人間ってのはバカですね」
「ははは、そう捨てたもんでもないかも知れんぞ」
30年後。
「親父、お袋、今まで苦労かけたけど、ようやく会社が軌道に乗ったんだ。これからは楽させてやれるぞ。今までできの悪い息子でごめんな」
「立派に…なって…」
「お前は私達の自慢の息子だよ」
老夫婦と二人の肩を抱く男を白いスーツの男達はモニターで見ていた。
「な、人間ってのは面白いだろ?」
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