会社から帰ってくると、トトがしゃべり始めていた。
私が父親で、トトが子供なら喜ばしいことだっただろう。
だが、トトは飼い猫だった。
私は普段のように、家のドアを開けると「ただいまー」と言いつつ、中に入った。
だが、迎えてくれたのはいつもの「うにゃーん」という鳴き声とは違っていた。
「遅かったじゃないの! 早くご飯の用意してよ!」
「ああ、ごめんごめん。今用意する…から…!?」」
聞き間違いか? 疲れているんだろうか。
私は恐る恐る聞いてみた。
「トト…今、なんか言ったか?」
「何度も言わせないでよ! ご・は・ん! だってば!」
タイミングよくTVドラマのセリフが重なったのだろうか。
だが、TVには電源が入ってない。もちろんラジオにも。
私は猫用缶詰をトトのえさ入れに開けた。
今日はもう寝よう。絶対疲れている。
さっさと部屋着に着替え、布団を敷いてもぐりこんだ。
トトは飯を食いながら、
「カルカンもいいんだけどさー、モンプチだっけ?
あれも結構いけるよねー」
などと言っているように聞こえた。
めし食いながらしゃべるな!
いや、そもそも猫がしゃべるな!
一刻も早く寝よう。
めし食い終わったトトが布団の中に入ってきた。
「もう寝るのぅ?」
寝る!
私は布団を頭までかぶり、無理やり眠りについた。
<つづく>