トトがしゃべった日 (火曜日)

「いつまで寝てんの! 遅刻するよ! その前に朝ごはん!」

というトトの声で目が覚めた。
「あ、すいまふぇん、今起きまふ」
寝起きで無防備な状態だったので、舌が回らなかった。
しかも私はこういうときに話し掛けられると、何故か敬語になってしまうのだ。

「何敬語使ってんの! 馬鹿じゃないの! さっさと起きろー!」
「わかった、起きるからちょっと黙っててくれ」

私はトトのめしの準備をして、出社準備をし、逃げるように外に出た。

会社についても仕事が手につかなかった。
落ち着け。冷静に考えろ。
なぜ猫がしゃべるのか?…わからない。
では、しゃべる猫に対してどう対処すれば良いか?…わからない。
わからないわからない。

家に帰るまでの間に、一応の結論は出た。
しゃべりだした原因はあいかわらずわからないが、
今までだって、トトには普通にしゃべりかけたりしていたのだ。
ご飯食うか? 寒いのか? こっちおいで。等だ。
あまりおろおろしては、飼い主としての威厳にかかわる。
自宅に帰りついた私は、意を決して玄関のドアを開けた。

「ただいまー」
「あら、今日は早かったじゃないの。」
「定時で帰ってきたからな。」
「あっそ。早くご飯出して〜」

今日は『モンプチ』を用意した。
エサ入れに開けると、トトはさっそく食べ始めた。

「あら、モンプチじゃないの。アンタ、結構気が利くわねー」
「アンタっていうな。俺は飼い主なんだぞ」
「あたしは、飼ってくれって頼んだ覚えはありませんよーだ。」
「…」

悔しい。ヒゲを引っこ抜いてやろうか。
だが、言うことは憎たらしくても姿はかわいい猫だ。
そんなことは出来ない。

私は今日もさっさと寝ることにした。
トトは例によって「もう寝るのぅ〜」と言いながら布団に入ってきた。
考えようによっては、かわいいじゃないか。よしよし。

「布団の中でオナラしないでよね。アンタのくっさいんだから。普段何食べてんの?」

やっぱり憎たらしい。

<つづく>


トトがしゃべった日へ

全力HPホームへ