トトがしゃべった日 (金曜日)

もう昨日の失敗は繰り返さない。

かなり余裕を持って起床し、トトにエサをあげた。
「んじゃ、いってきま。」
「なんで、『ま』で止めんの! おっさんか!」
そう言いながらも機嫌は直っているようだ。

会社に行って、仕事をし、さあそろそろ就業時間終了、と思ったそのとき。
上司から飲みに誘われた。
断るわけには行くまい。
じゃあ、ちょっとだけ、のつもりがかなり遅い時間になってしまった。

「あのー、た、ただいまー」
「…」

返事をしない。150円の猫缶をあげても、何も言わず食べるだけだ。
怒っているのだろうか、昨日の今日だしな。
もしかして、普通の猫に戻ったか。

パソコンにうんこ攻撃でもされてるんじゃないかと思ったが、取り越し苦労だった。
その他にも、攻撃を受けた形跡はなかった。

まあいい。私は電話をかけた。
私が想いを寄せている女性にだ。ここしばらく連絡を取っていない。

プルルルルル…がちゃ。
「あ、もしもしー。」
「はーい」
「いやー、今週変なことがあって、なかなか電話できなくてー」
「なになに? 変なことって?」

そのとき。トトがしゃべりだした。

「ねぇ〜。誰に電話してるのぅ?」
「!! こっ、こらっ!」
「…誰かいるの?」

「えっ、いや、これは猫がね…」
「ねぇ〜、もう寝ようよ〜。一緒に。」
「ふーん、お邪魔なようだから電話切るね…さ・よ・な・ら!」

これはトトなんだ!と言ったときには電話が切れていた。
再度電話すると、
「電波が届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません」
と、むなしいメッセージが流れていた。

「トト! 俺の人生を狂わせる気か!」
「ふん、この程度で狂うなんて、大した人生じゃないね」

な、生意気な!
だが、一理あるし、そもそも今回も私が悪いような気がする。
今日は遅いし、もう寝よう。

布団をかぶると、トトが中に入ってきた。

「なあ、トト。今日みたいなことはもうしないでくれよ。お願いだから」
「…わかったよ、もうしない」

なんだ、珍しく素直だな。
そう思いつつ眠りについたのだった。

<つづく>


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